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もし昔話のおじいさんおばあさんが私たち夫婦だったら

〜桃太郎編〜

夫が家でデレステに夢中になっているころ、私は洗濯機で洗濯&乾燥をスタートさせると、痩せるためにちょっと運動してくると言って家を出た。

しかし家を出て数分後、早くも諸々が億劫になった私は、橋の上から川をボーッと眺めて時間をつぶしていた。

川を眺めて15分ほど経った頃だったろうか、驚いたことに、川上から大きな桃が流れてきたではないか。私はすぐさま家に飛び帰って、夫に報告した。

「ねえねえ聞いて!今ね!目黒川に、ドンブラコっつって!流れてきた!」

「なにドンブラコって。また新しい流行語考えたの?」

たしかに私は流行語を考えるのが趣味だ。だが今回はそういうことではない。

「違う、桃!めっちゃ大きい桃が川に流れてきた!」

「大きいかどうかは基準によるね」

そうだった。具体性のない形容詞は夫には通用しない。

「普通の桃の20倍くらいあるやつ!」

「普通って一口に言っても、人によって思い浮かべる大きさは違うんじゃない? ってかキミは運動しに行ったんじゃなかったの?」

この際、運動のくだりはスルーだ。

「生まれたばかりの人間の赤ん坊が中に入りそうなくらいの大きさの桃だった!」

「なるほど、それは大きいね」

やっとわかってもらえた私は、さらに興奮して続ける。

「ねぇ、その桃を持って帰ってきたらさ!なんかいいことあるかもじゃない?もしかしたら中になんか貴重なもの入ってるかも!」

「仮定で話をしてもあまり意味があるとは思わないね」

夫はいつだって冷静で知性的だ。

「でもさ、あの大きさだけでも相当珍しいし!試しに拾ってみる価値はあるよね!?」

「さあ、どうかな。危険なことがないとも言い切れないし。大体キミは、そういう大きな桃についてちゃんと勉強したことがあるの?」

「え・・・いや、大きな桃の勉強したことはないけど・・・」

「じゃあまずは本読むところから始めるべきじゃない? はい(アマゾンのトップページを差し出す)」

「え、あ、うん・・・でも大きな桃に関する本なんてあるのかな・・・」

「実物が存在するなら高確率で本もあるでしょ。そうでなければ“大きな果物”とか少し括りを大きくして探してみるとかでもいいかもね」

「はい・・・」

私はしぶしぶアマゾンで本の検索を始めるが、先ほど川を流れていた桃が頭から離れない。

「ねえ、じゃあさ、写真だけでも撮りにいかない?あんなの中々出会えないし、きっと面白い写真になるよ」

写真は夫と私の共通の趣味だ。

「それはいい考えだね。じゃあレンズは中望遠にしようかな。いやもしかしたら広角のほうが面白いかな・・・」

夫が乗り気になって答える。上手くいった。実物を目前にすれば夫だって興奮せずにはおるまい。なんだかんだ10分ほどかけて出かける準備をすると、2人で家を出た。

「絶っっっっ対びっくりするよ!たぶん私にひれ伏すことになるね!」

私は夫に向かってドヤ顔で言う。

しかし数分後、橋の上にたどり着いたとき、もうそこに桃の姿はなかった。

「どこ?」

夫が私に問う。私は死力を尽くして、というより、視力を尽くして探す。が、見つからない。

「きっともう流れて行っちゃったんだ。さっきはホントにあったんだから!ホントだよ!!」

私が必死に訴えかけると、夫は優しく微笑んで頭をポンポンと叩く。

「わかったわかった」

信じてないな、と思いながらも私はそれ以上主張を証明する術を持たず、黙り込んだ。

 

「家でアニメ見よっか」

と夫が言う。

「うん!」

と答えて、2人並んで家に帰った。

 

めでたしめでたし