『さるかに合戦』さるへの独占インタビュー

(“習慣づけ”が苦手な自分への課題として、今日から最低1ヶ月、毎日何かしら日記のようなものを書くことにした)

 

今日は「さるかに合戦」について考えた。

以下、さるかに合戦のさるの言い分を聞いてみたらどうなるだろうという妄想である。

 

ーー例の合戦当時、あなたを取り巻く環境はどのようなものだったのですか?

他の場所はどうかわかりませんが、私たちが住んでいた村には、我々の仲間が非常に少なくて。「さる」でしたっけ?あなたたちがそう呼ぶ種が少なかったということです。それで、いわゆる迫害を受けていました。食べ物が豊富な場所に立ち入ろうとすれば嫌がらせをされたし・・・あ、はい、他の生物たちからです。カニも、そうですね。村で繁栄していた種のひとつでしたから。彼らから受け入れられない私たちは村のはずれの荒廃した土地でひっそりと暮らすしかありませんでした。

 

ーーなぜそのような迫害を受けたと思いますか?

おそらく、ですけど。私たちはこの2本の前足を器用に使います。あなたたちが「手」と呼んでいるものとほとんど同じようにです。

私もカニとの一件で初めて気づいたのですが、どうやらこのような器用な足をもった生物は、あの村では私たちだけだったようです。土地の新参者である上に、特殊な身体能力を持っているということが、彼らにとっては脅威だったのだと思います。

 

ーーなるほど。では、そのような扱いを受けている復讐に、カニを騙しておにぎりを奪ったと?

違います!騙して奪うなんてそんな・・・そんな風に思われているのですね。

あの時は子供が体調を崩して・・・。

普段は荒廃した土地の中でも苦労と工夫を重ねて、木の実などわずかな食料をやりくりしながらなんとか暮らしていたのですが、そのときばかりは子供に栄養のあるものを食べさせてやりたかったんです。でも私の手元にあるのは柿のタネだけで・・・。柿のタネだって、私のとってはとても重要な食料源だったんです!上手く育てることができれば、長年、多くの実をつけますから。いつか良い土地を探して育てようと大切にしていたんです。でもその時は柿を育てている時間なんてなかった。すぐに食べられるものが必要だったんです。そんな状況で食料を探していた時に、偶然おにぎりを持ったカニに会ったんです。嫌われている私が何を言ってもダメだろうとは思ったけど、子供のためです。事情を説明して必死に懇願しました。柿のタネとおにぎりを交換して欲しい、と。そうしたらカニは渋々ながらOKしてくれて。心の底から感謝しました。おかげで子供も元気になりました。彼は恩人です。

 

ーーその恩人に向かって青い柿を投げつけた?

まさか!まさか!!そんなことするはずもありません。

数日後にカニが文句を言いに来たんです。柿のタネを植えたのに柿がならない、って。騙したな、って。

でも違うんです。私が小さい頃母から教わった言葉に「桃栗三年柿八年」っていうのがあって。え?あなたたちも知ってる?そんなに未来まで言い伝えられてるなんて、驚きです!母の言葉が!!・・・あ、すみません。話が逸れましたね。

つまり柿が実をつけるまでには時間がかかるってことを、カニに説明しました。それでも納得がいかないようだったので、カニが柿を植えたという場所まで同行しました。私は面食らいました。カニは、せっかく出た芽に向かって、ハサミでちょん切るぞ!って言うんです。なかなか成長しないから切ってしまうって。そんなもったいないことをするなんて信じられません!私は慌てて止めました。そして、植物を上手く育てるコツをいくつか教えたのです。雨以外にも定期的に水をやったほうがいいこと。それと、土には糞を混ぜるとよいということ。そして、花が咲いたら蜂に飛び回ってもらった方がいいということです。・・・全部母からの受け売りですけど。

最後に、「桃栗三年柿八年」という言葉を教えて、少し気長にかまえてみてほしいと伝えました。

それから何回季節が巡ったでしょうか。柿の木がきちんと育っているかは少し気になっていたけど、カニたちが住むエリアに私たちが勝手に立ち入ることは許されませんから。それまで通りひっそりと暮らしていました。

するとまたカニから連絡が来たのです。柿がなったが高くて取れないから、取ってほしいと。恩人の頼みです。私はすぐさま向かいました。

 

ーーでもカニは、あなたが投げた青い柿に当って亡くなりましたよね?

あれは・・・あれは・・・悔やんでも悔やみきれません。本当に、私が無知だったばかりに起こしてしまった事故だったんです・・・

私が柿の木に登ると、カニはまず青い柿を取ってくれと私に言いました。なんでも「柿渋」をつくるとかで。熟す前の柿から取る液体で、薬みたいに使えるんです。それも私が以前教えたことでした。カニは「柿渋」のために柿を砕く臼も用意したと嬉しそうでした。まずは「柿渋」のための青い柿を取ってほしいと説明されて、私はカニの言うとおり、青い柿をとってカニに渡そうとしました。

・・・でも私は大きな勘違いをしていたのです。カニも当然私たちのように、落とした柿を受け止めることができると。あの立派なハサミでキャッチできるものだと・・・でも・・・でも・・・間違っていました・・・本当に知らなかったんです。だってそれまで他の生物を関わることを許されていませんでしたから・・・すみません、言い訳にもならないですよね・・・

 

ーー不幸な事故だったということですね。では、カニ側の報復は誤りだったと?

いえ・・・私が彼に柿をぶつけてしまったのは事実ですから・・・罰を受けて当然だと思っています。カニの子供たちが私を恨むのは当然のことです。糞に蜂・栗に臼、報復に使われたのは、私が柿を育てるために教えたものばかりです。なんだか感服しました。私はそれだけのことをしてしまったのだな、と変に冷静な自分がいて(苦笑)

ただ、これをきっかけに私たちの仲間への迫害がさらに強くなってしまうことだけは懸念でした・・・でも私は絶命する前にそのことへの対策が何もできなかった。本当に後悔しています。悔やんでいます。私が命絶える直前に家族に言えたことと言えば、「桃だけは味方か」という一言だけで。意味がわからないですよね。生死の狭間に立ったらむしろ驚くほど思考がお気楽になって。そういえば「桃栗三年柿八年」の「桃」だけは報復に使われなかったな、なんてことが頭をよぎって、そんな言葉が出てしまったんです。

私たちの仲間・・・その、つまりその、「サル」は大丈夫だったのでしょうか。私の・・・私の息子は、幸せに暮らせたでしょうか・・・

 

え?息子が桃と?カニ退治に?

そんな・・・報復の応酬になってしまったのですね・・・そんなことは決して望んでいなかったのに・・・

え?カニじゃなくて、オニ?オニってなんでしょう・・・?