大御所にA0パネルを持って特攻してみた話①
若くして異例の登用で成功を収めたという人にそのきっかけを聞くと、「いきなり業界のトップのところに直接出向いてアピールしてやったんですよ。そしたら気に入られちゃって。ハハハ」という話をたまに聞く。
もしかしたら自分が記憶しているそういう話の半分くらいはフィクションの世界の話だったかもしれないけど、話題となる成功談として「よくある話」な気がする。
まぁ、しかしそうやって成功する人は間違いなく、そういうアピール方法に適正がある人である。と私は思っている。
仮に私がこの性格で、意を決して突如どこかの大御所のところに乗り込んだとしても、結局下駄箱にラブレター入れてこっそり帰ってくることくらいしかできない。面と向かえば、喋り出しのドモり部分だけで2分くらい要する。だから決して、そういうやり方を真似しようとは思わなかった。
今、私はいわゆる「笑い」を創る人になりたいと思っていて、尊敬するその世界の大御所が講師を務める学校に通っている。ただ当然、学校に通ってるだけではダメで、何かしら次に繋がる行動を起こさなければならない。だがその行動をなかなか起こせずグズグズしているのが、もはやダメ人間であることを見失いそうになるほど信頼のダメ人間っぷりを自負する私である。
そんな状態で、超久しぶりに大学時代の尊敬する先輩に会う機会があった。類まれな才能とアピール力をいかんなく発揮して独自のフィールドで活躍し続けるその先輩は、私の状況を聞くなり言い放った。
「その先生に雇ってもらえるようA0のパネルを持ってアピールしろ」と。
「何も失うものはないのに、それくらいやれなくてどうする」と。
ご存知ない方のために説明すると「A0(エーゼロ)」というのは、A4, A3と同じ用紙サイズの規格で、その名のごとく「A」シリーズでは最も大きい「841mm × 1189mm」を誇る。私も学生時代参加した学会の「ポスター発表」というやつでしかお世話になったことはない。
先輩の言葉を聞いたとき、いやいやいや、と思った。そのやり方は私には向いてないんです、と考えていた。
ところが「だってそれって面白いよね?」という先輩の言葉を聞いて、心が傾いた。そうか、確かに面白い気がする。私はもとより面白いことをやりたいのである。面白いことをやって、今後面白いことをやりたいんだというアピールもできて、もっと大きな面白いことをやるチャンスに繋がるなら一石何鳥か!
それに、失うものは何もなく今より悪い状況になることはありえない、というのも事実だった。これぞ世に言う"ノーリスク"である!
心の角度が重力のなすがままにクルっとひっくり返り、気が付くと
「はい、実行を約束します」
と口が動いていた。
作戦実行の日は、次の学校の授業の日。何食わぬ顔で授業を受けたあと、出口で巨大パネルを持って先生を待ち構える、という算段である。
先輩との約束から実行までの時間は5日間。怒涛の準備が始まる。
A0の巨大パネル以外にも、自分が目指す業界ではほぼ必要とされない修士卒という学歴を活かして、教授の推薦状も書いてもらうことにした。もちろん"笑い"とは全く関係ないサイエンス分野の教授である。その分野で名の通った教授だが、教え子のそういう前向きな挑戦は喜んで受け入れてくれる懐の広さを持った素晴らしい指導者でもある。
自己満足かもしれないが、全然関係ないサイエンスの教授の推薦状持ってるとか、その意味不明さがなんとも言えずじわじわくるに違いない。
まず、教授に推薦状の依頼を申し出たところ、光の速さで快諾してくれて、光の速さで対応してくれた。これまでの自分の人生での素晴らしい出会いを実感して、しばし感激した。
(内容は晒せないけど、真剣な推薦状を書いていただいた)
そして、A0パネルの作成である。A0の発泡スチロール板を買って、それにA0ポスターを貼ることにした。
ところが、いざA0の発泡スチロール板が家に届いてみたら
とにかくデカイ。
A0という大きさを拝むのは久しぶりすぎて忘れていたが、なんていうか、こんなだ。
持ち運び過程を考えて一瞬ひるんだけど、もう後には引けない。
この板に貼るポスターについては、何をどのように描くか悩んだ末、シンプルイズベスト、ということで伝えたい思いをバシッとシンプルに表現することにした。
某印刷サービスで印刷したA0ポスターも手元に届き、夫の協力も得ながら夫婦初めての共同作業バリの共同作業っぷりで発泡スチロール板にポスターを貼り・余白部分を切り取って、気がつけば疲弊しきって完成したパネルがこちらである。
パネルはできたが、まだホッとはできない。
最大の課題は、これをどうやって持ち歩くか、である。(車を持っていない私には、車で運ぶという選択肢はない。 )
先輩は風呂敷に包んで持っていけばいい、みたいなこと言ってたが、そんな手土産みたいに持てる大きさじゃない。てかこんな大きさの風呂敷なかなかない。
実は、A0発泡スチロール板をひと目見たときからピンときていた。
「これは、背負うしかないだろ」と。
というわけで朝顔の観察日記バリにリュックサックをじっくり観察して紐を取り付けた結果、
できたっぽい。
この写真のように、ただ歩くだけであらゆる人に職を乞うことができる優秀な「求職パネル」としても使用可能な仕様となったが、今回は先生にだけ伝わればよいので、運搬過程では目に触れないように梱包し、最終形はこうなった。
準備は完了。
そして、いよいよ当日。
パネルを背負っていざ出発である。
次の記事につづく↓