退職エントリー
IT業界特有のことなのかよくわからないが、世の中には結構「○○を退職しました」というブログを書く人がいるということなので、私も流れに乗って退職エントリーというやつを書いてみたいと思う。
とはいえ、この「退職」は1年以上前の話である。
このブログの1つ目のエントリー「ハローワークに行ってきた」の前の、いわば"エピソード0"を後出しするという流行りの演出である。
私は1年ちょっと前、5年間勤めたSEを辞めた。
辞めることを決意してまず実行したことは、上長にその決意を伝えることだった。
こっそり会議室で面談してもらい「○月いっぱいでやめます」と伝えると、「やめた後どうするのか?」という質問を受けた。まあ、当然の反応である。
私は「人を笑わせます」と答えた。
一瞬の沈黙の後、上長の表情から上長らしい威厳が失われ、なんとも情けないものを見る顔で「・・・へ?」と再度問いかけられた。まあ、当然の反応である。その決意自体が冗談にしか聞こえない。
言うてみれば私の発言は「オレ、ビッグになるんで」とほぼ同義だった。自覚なかったけど。
三十路にもなって、実態のない雲をつかむようなことを言って、割と高収入で割と安定した有り難い地位を捨て去ろうとしているのである。深刻な中二病患者としか言い様がない。呆れて言葉にならない、というのが上長の心境だっただろうと思う。
それでも私は真剣だった。本気だった。めっちゃ考え抜いたつもりつもっていた。
「人をエンターテインするのです」ともう一度答えた。
その日は金曜日だった。
「頭を冷やして土日ゆっくり考えてみなさい。また月曜日に話そう。」
上長はその一言残して、面談は終了した。彼の精一杯の配慮、優しさだったと思う。そして異例の対応だったと思う。
それに対し私は「月曜になっても考えは変わりませんよ」というカッコイイ捨て台詞と共に、アルカイックドヤ顔をキメていた。誰も見てなかったけど。
そして月曜日、また同じやりとりをして、キミは本当にバカなことをしようとしているんだよ、と散々諭して頂いたにもかかわらず、意志の硬さをアピールする私に上長ももうどうしようもねーや、と匙を投げて私はSEを辞めることになった。
これが「やめちゃった退職※」の顛末である。
※ やめちゃった退職とは、「やめちゃった」という軽いノリで退職すること。もしくは(本人にその気がなくても)周囲からそのように見える退職。
退職エントリーと言えば、前職への想いを語るのが通例だと思うので、ここからはそれに倣おうと思う。
思い返せば、何をやっても続かない・成し遂げない私が、よく5年間も続けられたものだと思う。ひとえに周囲の人々の支えや整った職場環境のおかげである。
しかしもっとちゃんと思い返すと、入社後の最初の2年間くらいはSEとして働く傍らでミュージカル俳優を目指そうとしていたという馬鹿げた事実が掘り返される。
実家暮らしをいいことに一生分のバイタリティを浪費しながら、バレエ・ジャズダンス・タップダンス・歌・ミュージカルサークルという5つの習い事を掛け持っていた。かけている時間だけ見ると、どっちが本職だ、という話である。
当初結構本気でがんばったけど、2年間くらいでそれも諦めた。まぁリームーだった。
その後、変な野望は捨ててマジメに働いていたつもりだが、辞めるときに、自分が会社で成し遂げたことってなんだろうと振り返ってみたら
「社内ブログにダジャレを書いて好評を得た」
「社内でIT駄洒落コンテストをひらいた」
「"スライドと会話する"という新しいプレゼンメソッドを提唱した」
くらいしか思い浮かばず、まあ結局、特に成し遂げたことはないというのが結論だった。
やはり安定の「成し遂げなさ」を保っていた5年間だった。
よかった、ブレてない。
そして、なにも成し遂げないうちに、退職しました。
本当に、ありがとうございました。
賢い大人は真似しないでください。