つれづれなるままに、再就職活動の話

再雇用後1週間で再失業者になった今、日本の完全失業率の低下に貢献すべく、というか、自分の強靭なぐうたら精神力に引きづられてコロコロと坂を転げ落ちていくことを阻止すべく、再求職活動をしている。

 

今日は派遣の仕事の面接があった。業務内容的に今後の糧になりそうな希望に合致した仕事である。

目が覚めてNHKの朝イチをがっつり視聴し、その後の国会中継で参院代表質問を見て校長先生のお話みたいだなーなどと思いを馳せていたところまではいつもと変わらぬ朝。

しかし今日はその後の行動がひと味違った。

新卒の就職活動時に着用していたリクルートスーツ(冬物スーツこれ一着しか持っていない)を戦闘服とばかりの意気込みで身にまとい、念入りに化粧をする。

さらに、「今日は勝負だから」と、父から土産でもらった有名海外ブランドの香水を開封した。冷静に振り返ると、多少「勝負」の意味合いを取り違った感はある。

その土産物は5種類ほどの香水のお試しセットみたいな形になっていたのだが、説明書は外国語(おそらくフランス語)で読む気はせず、Don't think. Feel ! とブルース・リーも言っていたわけなので、何も考えずに端っこのやつを手にとって少量手首に塗った。

するとどうだろう。街で見かけるシャレオツなメンズが漂わせている類の香りが自分から漂い始めた。これ、もしかして男性用か、という疑念が一瞬頭をよぎる。

さらに何かの成分が肌に合わなかったのか手首がヒリヒリし始めた。腫れたらどうしよう、という不安が一瞬頭をかすめる。

すぐさま深く考えることはやめて、いざゆかんとばかりに立ち上がった。

 

場所が銀座で面接時間は夕方だったので、早めに行って少しゆっくりしようと思って現地に向かった。

銀座に到着すると、自分が履いている靴の先端の飾り部分が左足だけぶっ壊れていることに気づく。"鼻緒が切れた"みたいで、非常に幸先が悪い。

普段の私ならそのまま一日押し通すところなのだが、今日は勝負の日だし、足元がきちんとしていない女性はだらしない印象を与えるという話も聞いたことがあるし、こりゃまずいと思ってデパートでセール品の靴を購入。その場で履き替えた。

元々履いていた靴は捨てちゃって、と店員に頼む自分がセレブっぽいと一瞬錯覚したが、紛れもない無職者であるという現実に返り、余計な出費が嵩んでしまったことを悔やむ。

 

それでもまだ時間があったので、スターバックスに入った。

するとどうだろう。そこには"本物の"就活生が複数人おり、懐かしのSPIの勉強などしていた。リクルートスーツだけはお揃いだが、私一人、明らかに年齢・鮮度面で偽物感を醸し出していて肩身が狭い。

さらに隣に座っていた20代半ばくらいの女子二人の会話が驚くほどスリルに満ちていてハラハラ感が止まらない。

その二人のうち一人は結婚式を間近に控えている様子だったのだが、

友人女子「ドレスは結局何色にしたの?」

結婚前女子「赤にしたー。写真あるから見て見てー。コレ!」

友人女子「なんか、寸胴に見えるね。胸元のレースの形のせいだと思うけど、私、あまり好きじゃない。こっちの紅(べに)色のドレスの方が好きだな。」

結婚前女子「そっちのドレスは高いんだよー。。。あ、グローブは白か黒か迷ってるんだけどさ。どっちがいいと思う?」

友人女子「うーーん。長いグローブにしたほうがいいんじゃない?」

結婚前女子「長いのは有料なんだよ。」

友人女子「ちょwwwもうちょっと(金銭面で)がんばりなよwww」

結婚前女子「結婚式挙げるだけで結構がんばってるんだよ。」

友人女子「いくらくらいかかるの?」

結婚前女子「○○万円くらい」

友人女子「○○万円だと、きっとお料理はたいしたことないね。」

結婚前女子「あ、でもレストランがメインの会場だからお料理はそこそこだと思う。でさ、私がさ、[友人女子]ちゃんにメイクを頼むとするとさ・・・」

友人女子「ちょwww私、行かなくちゃいけないの?」

 

ダイ・ハード並にスリルが畳み掛けてくる。赤の他人の会話にここまで変な汗をかいたのは初めてだ。女子特有の過剰なまでのお世辞がなくて気持ち良い・素直に話ができている分仲が良い、と捉えられないこともないが、もう少し祝福の色が滲み出てもバチは当たらない。結婚前女子の心の強さに全米が泣くレベルだ。

このままだと面接前に憔悴しきってしまうかもしれないという危機感を覚え、スターバックスを出て派遣会社の方との待ち合わせ場所に向かう。

約束の時間より早く着いてしまったのでしばらくぼーっと立って待っていると、最近よくウワサを耳にする「ロボットレストラン」なるお店の広告車両が目の前を通過していった。女体ロボット2体を引き連れた大々的な広告が、妙なテーマソングと共にゆっくり通り過ぎていくその様は銀座という街にはひどく不釣り合いな感じで、異次元に迷い込んだようだった。

(ロボットレストラン http://www.shinjuku-robot.com/pc/top/

 

その後派遣会社の方と合流して、やっと派遣先企業との面接にたどり着いた。

緊張症な私は一生懸命しゃべると鼻の頭に大量の汗をかく。犬は鼻が濡れていないのが病気の証拠、と言うが、私は鼻が濡れているのが一生懸命の証拠だ。そんなパーソナリティを事前に先方に伝える術があれば、私の面接ライフはもう少し華やかなものになるのかもしれない。しかしそんなことを履歴書その他の書類に書く勇気は毛頭ない。

話の所々でうまくごまかしながら鼻の頭の汗を拭いつつ、会話事態はそこそこ問題なく進んでいた。

しかし、途中で1つ、全く予期せぬ質問が飛んできた。

「□□が優れていると思う企業はありますか?それはどこですか?」

すぐに答えが思い浮かばず、瞬間的に頭が真っ白になった。しかしその時、奇跡のように私の耳に聞こえてきたのだ。

ロボットレストランのテーマソングが。

このタイミングで、あの広告車両が、ちょうど面接会場の社屋の前を通った。

真っ白な頭に突如飛び込んできたテーマソングにより、私の頭の中はロボットレストラン一色に染まってしまった。

でもここで間違って「ロボットレストラン」という言葉を一言でも口にしようものなら、今日という日が水の泡となって消え去っていく。そう判断できる冷静さが残っていたのが幸いだった。

広告車両が通り過ぎるのをじっと待ってから、ゆっくりと考えてそこそこ無難な回答をした。

質問から回答まで相当間が空いてしまったが、ここは最悪の事態を免れた自分を褒めてあげたい。

 

面接が終わり、後は結果を待つのみである。

特に致命的な失敗があったとは思わないのだが、面接の後はいつも、なぜか凹みまくる。たぶんダメだろうという思いに支配される。

これはおそらくこれまでの人生で身についた条件反射のようなものなのだろう。

パブロフの犬、ならぬバーグの面接。両者とも鼻が濡れている点からも相同性が高い。

 

ひとまずしばらくはムリポジで、果報が飛び込んでくるのを(口を開けて)寝て待とうと思う。

 ※ムリポジ=ムリにポジティブに考えること。