中学生と電話の話

中学生くらいの時だったか、自宅で一人で留守番しているとき、兄宛てに電話がかかってきた。

けっこう年齢が離れいるため兄は既に大学生だったのだが、電話の相手は兄の高校時代の友人ということだった。

 

相手は、

「○○高校の3年☓組で△△くんと一緒だった□□ですけど、△△くんいますか?」

と名乗り、私は「今出かけています。」とありのままを伝えた。

 

すると予想に反して相手が饒舌に話し始めた。

相手「あー、そうですかー。何時頃戻りますか?」

私「ちょっとわからないです・・・」

相手「妹さんですか?」

私「あ、はい」

電話を切らずに自分に話かけようとしている相手にちょっとビックリした。

 

相手「実はボク、大学で北海道に行ったんですけどね、少しの間用事があって戻ってきているから、この機会に△△くんに会いたいなーと思いましてね。」

私「そうなんですかー!」

一気に親近感が湧き、これはなんとしても兄と連絡を取らせてあげなきゃな、という気になったが、当時携帯電話などなく状況を打開する手段はなかった。

 

相手「ところで、お兄さんの高校時代のアダ名、知ってますか?」

たしか、兄はずっと苗字を少し変形させたアダ名で呼ばれていた、と記憶していたが、間違えていたら恥ずかしいので「いいえ、知りません。」と答えておいた。

相手「スカンクっていうアダ名だったんですよーーー!」

初めて聞く事実だった。

相手「なんでだか、わかりますか?」

私「え、なんでですか?」

相手「屁がすごく臭くてねー!」

私「えー!?そうなんですか〜?」

 

という談笑があり、私は完全に舞い上がっていた。

会ったことのない友人の妹に、こうも楽しいお話をしてくれるなんて、なんだかとっても良い人だ、と思った。少し仲良くなれた感じが嬉しかった。そんなことが嬉しい幼い年頃だったのだ。

アダ名トークの後、では兄に伝えておきますねー、ということで電話を切った。

 

電話を切った後、興奮冷めやらぬ状態で喜び勇んで兄宛てのメモを書いた。

「○○高校の3年☓組で一緒だった□□さんから電話がありました。北海道から帰ってきているので、会いたいそうです。」と。

無事兄と会えるといいな、と願いつつ。

 

しかし、帰宅した兄はこう言ったのだ。

「□□なんて知らない。」と。

高校名もクラス名も兄が所属していたものに一致しているのだが、□□などというやつはいなかった、と。

うそだ!うそだ!ちゃんと調べて!と言って名簿を見せてもらったが、確かにいなかった。

 

私の中で、ガーーーーンという効果音が鳴り響いた。

栗まんじゅうだと思って買ってきたまんじゅうに栗が入ってなかったくらい、ショックだった。

最後に、恐る恐る兄に聞いた。

私「・・・お兄ちゃん、高校のとき・・・スカンクって呼ばれてた?」

兄「は?知らねーよ」

天井から金ダライが落ちてきた。

 

あのひとときはなんだったのか。

弄ばれているとも知らずに、舞い上がって嬉しくなって・・・ワタシ、バカみたいっ!

 

これが、オレオレ詐欺の前身とも言える、スカンク詐欺の一部始終である。敵ながらあっぱれとしか言いようのない見事な手口である。

え、何も盗まれてないって?

 

いや、奴はとんでもないものを盗んで行きました。

私の心です。