私が神になる瞬間

皆さんは大腸菌のコロニーをピックしたことがあるだろうか。

私は縁あって、去年の後半ころから、仕事でちょいちょいピックするようになった。

とにかく雑に説明すると、↓の絵の、たくさんの点々の中から任意でいくつかの点を選び、爪楊枝でつつくのだ。

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(「大腸菌」という言葉にあまりよいイメージを持たない方もいると思うので、以降は便宜的にcoliちゃんと呼ぶことにする)

丸い培地の中に存在する点々のひとつひとつがcoliちゃんの塊なのだが、なぜそいつを爪楊枝でつつくかというと、多くの場合、そのcoliちゃんが持っている「ちいさなメダル」が欲しいからである。

 

この無数のcoliちゃんからいくつかを選択するという作業をするとき、私は、この丸い「培地」という世界において神のような存在となっているのだな、と感じる。

私に選ばれた者と、選ばれなかった者、どっちのcoliちゃんのほうが幸せなのだろうか、と考える。

 

選ばれた者は、細胞をこじあけられて中からちいさなメダルを取り出される。

選ばれなかった者は、そのまま培地の上で放っておかれ、いつか火葬(仮)される。

 

長生きできるのは後者かもしれない。不自然な圧力に晒されることもなく、ゆったりマイペースに天寿を全うできるのかもしれない。

一方前者は、苦難の道を歩むことになるが、自分の中にあるちいさなメダルという価値を提供することはできる。

 

ゆったり自分のペースで天寿を全うする人生か、価値を生み出すために身を削る人生か・・・

今の社会では後者こそ幸せという論が多いような気もするが、みんながみんなそうというわけでもないだろう。

 

とにもかくにも、私のcoliちゃん選抜は、彼らの人生、もとい菌生を大きく左右する選択というわけだ。

さあ、どうしよう。悩む。

彼らは自己主張をしない。どっちがいいと、言ってくれない。私が一方的に決定権を持っているのだ。そんな重大な決断を、私が、この爪楊枝一本でしてしまっていいのだろうか・・・

 

そんなときふっと冷静で冷血な自分が降りてくるのだ。

「脳のない生物に、幸せもクソもないのでは?」

 

新しい年も、私は爪楊枝で神になる。

 

 

今年も宜しくお願いします。

 

 

大きな晦日の大掃除(平井堅ver.)

大きな晦日のフルそうじ ギリギリの大そうじ

1年いつも怠けていた ツケ返すそうじさ

年末休暇はじまった日に やっちゃうはずだったのさ

今はもう 大晦日 そのそうじ

 

1日休まずに クイックル クイックル

キッチンもトイレも クイックル クイックル

意外なとこで 金発見 そのそうじ

 

 

やっても終わらんフルそうじ 大晦日のそうじ

紅白で歌うの始まった それでも続いてた

星野源三山ひろしも 見てる場合じゃないのさ

アルバム見入って 進まない そのそうじ

 

 

真夜中に鐘がなった 大晦日のそうじ

年明けのときが来たのを みなに教えたのさ

低予算で頑張るさだまさし 今年ともお別れ

続きはもう 1年後 そのそうじ

 

1日休まずに ダイソン ダイソン

吸引力変わらん ダイソン ダイソン

捨てる!捨てない! 夫婦でもめる そのそうじ

分子生物学用語だらけの桃太郎

昔々あるところで、おじいさんとおばあさんがクローニングしていました。

おじいさんが山にライゲーションに、おばあさんが川にPCRに行くと、川上から「アンプリファ〜イ アンプリファ〜イ」と大きな桃が流れてきました。

「こんな突然変異の桃は見たことがない。家に持ち帰ってゲノムを読んでみたい」

おばあさんが桃を家に持ち帰り、ミニプレップすると、中から純度の高い赤ん坊が精製されました。

「この子の名前はpMomotaroにしましょう」

37℃でインキュベートすると桃太郎はすくすくと育ったので、グリセロールストックを作りました。

ある日桃太郎は言いました。

「ここまで僕をカルチャーしてくれてありがとう。鬼ヶ島をコンタミネーションさせて論文サブミットを阻止します」

 

桃太郎が、武器の活性を失わないよう温度に気を遣いながら鬼ヶ島に向かっている途中、E. coli大腸菌)のコロニーをピックしました。

「お腰につけたプラスミドベクター、どうか私をトランスフォーメーションしてください」

E. coliがそう言うので、桃太郎がトランスフォーメーションしてやると、E. coliは桃太郎の仲間になるプロテインを発現し始めました。

 

続いて、桃太郎が2%アガロースゲルを泳動していると、S. cerevisiae酵母)に出会いました。

「お腰につけたプラスミドベクター、どうか私でツーハイブリッドしてください」

S. cerevisiaeがそう言うので、桃太郎がツーハイブリッドスクリーニングをすると、S. cerevisiaeと桃太郎は相互作用することがわかりました。

 

さらに桃太郎が6,000rpm, 4℃, 30min遠心していると、M. musculus(マウス)がバランサーでした。

「お腰につけたプラスミドベクター、ウィルスでパッケージングして、どうか私に感染させてください」

M. musculusがそう言うので、桃太郎がトランスジェニックマウスを作製すると、M. musculus鬼耐性を獲得しました。

 

鬼ヶ島まであと少しというところまで来た時、桃太郎は退治プロトコルが細かく記載された実戦ノートを開いて言いました。

「効率よく進めるため、鬼ヶ島の大本営であるダイジェスチョンサイトを確実に狙おう。鬼が寝静まる夜間に襲撃する。O/Nの戦いになるぞ」

4人は夜になるまで近くのクリーンベンチで待機しました。

「覚悟はいいか。心してかかれよ。鬼は強いぞ。なんてたって、その名もDrosophila melanogasterだ」

桃太郎が言うと、3人はゴクリと唾を飲み込みました。

「ドロソフィラ・メラノガスター・・・なんて強そうなんだ・・・」

 

夜、4人はいよいよ鬼ヶ島に降り立ちました。鬼たちは寝ているのか、電気は全て消えて真っ暗でした。

「桃太郎さん、これでは暗くて、みなさんがどこにいるのかもわかりません」

E. coliが言いました。

「この時のために、さっきみんなにあげたプラスミドベクターGFPを入れておいたんだ」

桃太郎がそう言うと、他の3人は驚きの声をあげました。

S. cerevisiae「あれ!身体が!」

M. musuculus「緑色に!」

3人「光ってるぅ〜!?」

E. coli「これなら、みなさんのことがよくわかります!」

桃太郎は会心の笑顔で応えるのでした。

しかし今度はS.cerevisiaeが不安そうな声をあげます。

「でも、ダイジェスチョンサイトまでの道はどうやってわかるのでしょう?」

桃太郎は動じず、ゆっくりと大きな動作で両手を振りかぶると、勢い良く振り下ろしながら叫びました。

「ローーーーーディング・バッファーーーーーー!!!!!!」

するとどうでしょう。一本の道が青く照らされたではありませんか。

「この道に沿っていけばいい」

桃太郎は自信に満ちた表情で告げるのでした。

 

ダイジェスチョンサイトに着くと、4人は矢継ぎ早に攻撃を開始しました。

E. coli「BamHI(バム エイチ ワン)!」

大きな爆発音と共に、火が燃え上がります。

S. cerevisiae「NulI(ヌル ワン)!」

ヌルっとした液状の物質が、相手の動きを封じます。

M. musculus「EcoRI(エコ アール ワン)!」

クリーンエネルギーで動く重機がその辺を破壊します。

M. musculus「まだ手ぬるいか・・・EcoRV(エコ アール ファイヴ)!」

重機が5台に増えます。

 

鬼たちが反撃しようともがく中、桃太郎が不思議な呪文を唱えました。

セントラルドグマ!!!!!」

すると空中に不思議な空間への入り口が開き、tRNAたちが鬼をその空間へと次々と運んで行きます。

すべての敵の運搬が終わると、空間ごとまとめてオートクレーブにかけたのでした。

 

こうして研究の新規性を守った桃太郎たちは、インパクトファクターの高い論文誌に論文が掲載されたとさ。

めでたしめでたし。

 

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本エントリーは下記の元ネタを参考に書かせて頂きました。

 

「IT用語だらけの桃太郎」

bulk.co.jp

 

サイバーエージェント用語だらけの桃太郎」

ameblo.jp

 

※学名をイタリックに修正しました。

お祈りメールへの返信定型文

コレクターというのは通常、自分の愛するものを収集し、愛でるものだと思う。

しかし世の中には、意に反して自分の忌み嫌うものが自分のもとに集まってきてしまう場合がある。それが「不採用通知」だ。

いわゆる「お祈りメール」と呼ばれるそれを、私はこれまでの人生において、ドラゴンボールコミックス内でかめはめ波が放たれた数と同じくらい受け取ってきた。これはもう、かめはめ波を受けてきたと言い換えても過言ではない。

これだけ受けても慣れないのが、かめはめ波。もとい、不採用通知だ。

わかっているのだ。自分が不甲斐なさが招く結果であることは、わかっているのだ。そのことを受け止めて努力し、前向きに次に進まなければならないということも、わかっているのだ。だがどうしても、頭でどうキレイ事に収めようとしても、やはり受け取ったときには悲しみと怒りが沸いてくる。

「悲しみ」はまだわかる。自分が望んだことが叶わなかったのだから、本気であればあるほど悲しみが生まれて然るべきともいえる。しかしやっかいなのはもう一方の「怒り」という感情で、やり場のない、理不尽な、無駄なエネルギーに他ならない。

ではなぜこのメールはこんなにイライラさせるのか。それが「お祈りメール」という名の由来ともなった「今後のご健勝、ご活躍をお祈り申し上げます」というラストの一文にあると私は考える。

その他「ますますのご健勝を」「ご活躍とご健康を」など亜型は多数あれど、最終的には皆お祈りしてくれる。

わかっているのだ。日本語の形式的な挨拶をしめくくる定型文であることは、わかっているのだ。社交辞令であり、そこに大きな意味などないということも、わかっているのだ。普通の挨拶メールなら何の違和感もないし、むしろ私だって使っている。

だが、だが、である!

どんなに頭でそう収めようとしても、やっぱり不採用通知

お前、数行上に「貴意に添いかねる」って書いたじゃねーか、と。

たった今、私の今後のご活躍を真正面からシャットアウトしたばっかりじゃねーか、と。

その舌の根も乾かぬうちに「ご活躍をお祈りします」って、さすがに刹那に生きすぎだろ、と。

分かっちゃいるけど必殺の嫌味でトドメの一撃を刺しにきているように思えてしまうし、今年大流行した「落ちるは恥だが腹が立つ」とはまさにこのことである。

 

もうね、パンがないならお菓子を食べればいいじゃない。じゃないけどね、

社交辞令で矛盾する。それなら言わなきゃいいじゃない!?

 

そんなわけで、この行き場のないイライラ感を発散するため、これらのお祈りメールへの返信定型文を作成したので、就職・転職・その他選考への応募活動に勤しんでいる諸君におかれましては、ご自由にお使いください。

 

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株式会社◯◯

採用ご担当者 様

 

この度は、ご丁寧に選考結果のご連絡をいただきありがとうございます。

お忙しい中、私の今後の活躍を祈るお時間を割いていただけるとのこと、大変驚くと同時に感激しております。

採用説明会においては論理的思考が大切であると強調されておりましたので、そのことばかり重視しておりましたが、祈るというスピリチュアルな一面があることを知り、私の貴社への理解が不足していたと心より反省しております。

私のような愚者のために、時間を割いて祈りを捧げてくださる貴社に心より感謝すると共に、今後は貴社職員の皆様の業務のご負担が少しでも軽減されるよう、製品・サービスの利用を控えて参りたいと思います。

末筆ではございますが、貴社の今後のますますのご発展とご繁栄を心よりお祈り申し上げます。

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アイドルグループ解散の後日談

とある5人のアイドルグループが解散したX年後の話を、某アイドルアニメ風に妄想してみた。

 

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◯某テレビ局・凛の楽屋

木村凛が鏡に向かって座り、歌番組への出演スタンバイをしている。その横には別番組の衣装を来た中居卯月が立っている。

凛「卯月、それ本気で言ってんの?」

卯月「もちろんですっ!」

凛「・・・」

卯月「どうですか?凛ちゃん!」

凛「・・・無理」

卯月「・・・え?」

凛「無理だよ」

卯月「そんな!凛ちゃん、お願いです。もう一度よく考え・・・」

凛「(遮って)ごめん、私、もう本番だから」

立ち上がりその場を去る凛。

 

◯海岸

バラエティのロケ撮影の休憩時間。香取きらりが座って休憩している横に、私服の中居卯月が立っている。

きらり「卯月ちゃん、それを言うためにわざわざココまで来たにぃ?」

卯月「はい!」

きらり「・・・あのね、きらりね、卯月ちゃんが来てくれて、すっごくはぴはぴしたよ☆ ・・・でもにぃ、そのお話にすぐにウンって言うのは難しくて・・・ホントにごめんにぃ!」

 

◯ライブ会場・控室

草なぎアナスタシアがリハーサルのタイムラインを確認している。その横に私服の中居卯月が立っている。

アナスタシア「ウヅキ、そんなこと、かんがえてたデスカ?」

卯月「はい。結構前から、考えてたんです」

アナスタシア「・・・」

卯月「どうですか? アーニャちゃん」

アナスタシア「Извините, пожалуйста...」

 

◯事務所

新しいゴスロリ服の衣装合わせをしている稲垣蘭子。その横に稽古着の中居卯月が立っている。

蘭子「同胞よ・・・」

卯月「蘭子ちゃん、考えてみてくれませんか?」

蘭子「・・・悪魔と交わした契約を反故にすれば、大きな災いが降りかかる」

 

◯稽古場

稽古着のまま鏡の前に座り込み呆然とする中居卯月。そこに木村凛が入ってくる。

凛「卯月・・・」

卯月「あ、凛ちゃん」

凛「みんなに言ったんだって?」

卯月「はい」

凛「で? みんなはなんて?」

卯月「(首を横に振る)」

凛「・・・そっか。やっぱり無理なんだよ。再結成なんて」

卯月「無理なんかじゃないです!」

凛「だって私たち、すごく大勢のファンの声を押し切ってまで解散したんだよ!散々考えてそうしたんじゃない。それを今更、再結成なんて・・・生半可な気持ちじゃできない」

卯月「生半可じゃありません!!」

卯月の大声に驚く凛。

卯月「あ、凛ちゃん、ごめんなさい。でも私、生半可な気持ちなんかじゃ絶対ないです。だからもう一度だけ、もう一度だけ5人で話すチャンスをくれませんか?」

 

◯稽古場(日替わり)

中居卯月・木村凛・香取きらり・草なぎアナスタシア・稲垣蘭子の5人が集まり、稽古場の床に座って話している。

きらり「卯月ちゃんは、どうして急に、そんなこと考えたにぃ?」

卯月「急にじゃないんです。本当はずっと考えてたんです」

アナスタシア「ワタシタチ、とてもかんがえてカイサンしました。それはマチガイだったということですか?」

卯月「いえ、そうじゃないんです。あの時はあれがベストだったと思います」

蘭子「時に逆らい壊れし魔力の器を復活させるは禁忌の術。同胞よ、汝の心結界は我が闇の力をもってしても破ることができぬ」

凛「卯月、ちゃんと説明して」

卯月「・・・私、みんなと会えて、なりたかったアイドルになれて、ずっと夢見てるみたいでした。解散は悲しかったけど、あの時は5人揃ってSMAQとしてキラキラすることができなかったし、そんなの、みんなも見ているお客さんも辛かったと思うから・・・だから決断は間違ってなかったと思います。でも、SMAQとしての活動がなくなって、ひとりになって、初めて気づいたことがあるんです。私、アイドルとして自分がちゃんとキラキラできてるかなってことばかり考えてたけど、もしかしたら本当は、ファンの方やテレビの向こうの人たちをキラキラさせたかったんじゃないのかなって。私が昔、テレビの前で憧れて夢を持ったみたいに、そういう人を作りたかったんじゃないのかなって。私たちはあの頃より大人になったし、きっと前とは違う輝き方ができると思うんです。5人の個性がぶつかって重なって、より大きな影響力になると思ったんです。私、またキラキラしたいんです。今度は、見ている人を包むような、温かいキラキラをみんなで作りたいんです」

きらり「卯月ちゃん・・・きらりね、卯月ちゃんの気持ち、すっごく伝わったよ。ねぇ、あのね、ちょっとだけ、ギューッてしてもいいかなぁ?」

卯月「え? あ、はい」

きらり「(卯月を抱きしめながら)やってみよっか?」

卯月「・・・はいっ!」

アナスタシア「спасибо. ウヅキ。なんだかとてもタイセツなこと、きづかされました。ウヅキのいったキラキラ、ステキです」

卯月「アーニャちゃん!」

蘭子「我が闇の力は・・・ではなくて、えっとあの・・・私もまたみんなとやりたい!です!」

卯月「蘭子ちゃん、ありがとう」

凛「私は・・・私はわからない。卯月の言ってること」

きらり「凛ちゃん、どうしたにぃ?」

凛「だってあんなに悩んで考えて話し合って解散決めたのに・・・だったら私は、最初から解散なんてしたくなかった!」

稽古場から出ていく凛。

卯月「凛ちゃん・・・」

  

◯凛の実家

花屋を営んでいる凛の実家。店先には卯月の姿。凛が母親に呼ばれて家から出てくる。

凛「家まで来たって、考えは変わらないから」

店先の花を楽しそうに見る卯月。

卯月「花って、楽しいですね。見てるだけで気持ちが優しくなります」

凛「・・・」

卯月「(歌って)花屋の店先にならんだ〜 いろんな花を見ていた〜♪」

凛「! ちょっと卯月、ふざけないで!」

卯月「私、この歌をうたうときはいつも凛ちゃんのお家を思い出してたんですよ」

凛「え・・・?」

卯月「ほら、覚えてますか、私と凛ちゃんが初めて会ったのがこの場所でした」

凛「・・・そうだったかもね」

卯月「あの時はまだ私、凛ちゃんを凛ちゃんだって知らなくて(笑う)」

凛「当たり前でしょ。初めて会ったんだから」

卯月「運命って、あるんですよね」

凛「・・・」

卯月「私のアイドルの原点なんです。この場所と、凛ちゃんは。だからあの時のことはずっとずっと大切にしてます」

凛「・・・」

再び店先の花を見始める卯月。

卯月「本当に迷っちゃうな。(歌って)がんばって咲いた花はどれも きれいだから仕方ないね〜♪ あ、これにしようかな。これください」

一輪の花を手に取って凜に手渡す卯月。

凛「ラナンキュラス? 卯月らしい」

卯月「私用じゃなくて、凛ちゃんにプレゼントです」

凛「え? ・・・ラナンキュラスは私にはちょっと可愛すぎ」

卯月「ううん! ぴったりです!」

お代を渡して嬉しそうに去る卯月。その場に取り残されるラナンキュラスを手にもった凛。

凛「ラナンキュラス花言葉は・・・光輝を放つ、か」

 

◯コンサートホール

大規模なコンサートホール。客席は溢れんばかりのお客さんで埋め尽くされている。

舞台の真ん中に卯月が一人たち、ピンスポットが当たっている。

お客さんに向かって何かを話す卯月。

卯月がさっと手を上げると、舞台の全体照明がパッとつく。

舞台上にはきらり・アナスタシア・蘭子、そして凛の姿。

曲のイントロが始まる「世界にひとつだけの花」

照明の中でキラキラと輝く5人。

ペンライトで埋め尽くされてキラキラと輝く客席。

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特技は寝ることです。

「特技は寝ることです」

と言われたら、多くの人はただ、ふーん。と反応するだろう。

この話をそれ以上掘り下げる気にもならないし、おどろきも面白さも別段ない。受け手にとって興味を引く要素のない発言だからだ。

 

おそらく「特技は寝ることです」と発言する発言者の胸の内は、2パターンに当てはまる場合が多いのではないだろうか。

(特技なんて何も思いつかないけど・・・ないって言うのも感じ悪いしな)という『消極的特技は寝ることです』

または

(特技なんて言ったら自慢してるっぽく聞こえるよな。無難なこと言っとくか)という『謙譲型特技は寝ることです』

 

これらの場合、発言者側も受け手の興味をひくことを目的にしていない。むしろなるべく興味をもたれずスルーしてもらいたいという意志がある。だから、ふーん。で問題ない。

 

しかし、私は違う。今ココで、消極でも謙譲でもなく、積極的にドヤり気味で「特技は寝ることです」と宣言したい。これは、掘り下げに耐えうる正真正銘の特技である。

(とはいえ誰も掘り下げたくないと思うので、自分で勝手に掘り進むが)

具体的にどういう点で「特技」なのかと言うと、まず何より寝付きの速さが驚異的だ。睡眠界に、速さを競う“スピード睡眠”と、質を競う“フィギュア睡眠”の2種目があるとしたら、私は間違いなく前者で世界レベルの闘いを繰り広げるだろう。

私が寝付くまでにかかる時間は秒の世界だ。その速さは、本人でさえいつ寝たのか気づかないほど。友人に「それは気絶ではないのか」とまで言わしめた。もはや寝る意志よりも先に眠っているのだ。

この能力を応用して、酔っ払って何やらわけのわからないことを延々と話しかけてくる夫に「試しに8数えてみ?その間に私眠れるから!すごくない?見たくない!?見たいよね!?」とけしかけ、夫が素直に1から8まで数えている間に本当に眠ってみせたことがある。夫はイリュージョンを見られ、私は酔っ払いの絡みから開放され、夫婦円満にさえ役立っているのである。

スピード睡眠においては、育ち盛りの野比のび太氏とガチでタイマン張れると自負している。

 

スピード以外にも、どんな状況でも寝られるという強みもある。明るさや騒音はほとんど問題にならない。電車やバス、飛行機などの乗り物はもちろん、オフィスでメールを書いている途中や、ダイニングでうずらの卵の殻をむいている途中でも寝られるのだ。

これによって、「よろしくおねがいします」を「与路牛久お願いします」と表記するなど、気弱な暴走族っぽさを醸し出した業務メールの送付実績も豊富である。

 

しかしこのご時世、「特技が寝ること」だなど本気で語ることはなかなか許されない。そんなことを自慢げに語れば、怠け者の烙印を押されてしまう。悲しいかな私の特技は、社会の多くの場面で欠点でもあるのだ。

だから私はよく、「寝ること」が仕事になる世界を妄想する。

 

例えば、RPGのHP・MPのように、一人ひとりに体力と精神力のゲージがあって、睡眠によってそれが回復するとしたら。そして、他者による【睡眠代行】によって自分のゲージを回復することも可能になったとしたら・・・

その世界で私は、睡眠代行を生業とする。締め切り前の漫画家や納期直前のシステムエンジニア、働く時間が足りないと嘆く意識の高い人々などの代わりに寝る。寝て、寝て、みんなのゲージを回復させる。なんて幸せな日々だろう。特技を活かした仕事である。

そのうち私は、自分のゲージを回復させる睡眠を摂る時間がなくなる。一人の睡眠で回復できるのは一人のゲージ。つまり誰かのために寝ている時は、自分は回復しない。

それでも、どうせ寝るならお金ももらえたほうがよいので、睡眠代行の仕事に充ててしまう。誰とも会わず、ひたすら寝る日々。体力はなかなか減らずとも、気力がどんどん減っていく。だが寝ることに没頭しているため、それにさえ気づかない。

 

そうしていつしか私は、寝すぎによる過労で、永遠の眠りにつく。

『さるかに合戦』さるへの独占インタビュー

(“習慣づけ”が苦手な自分への課題として、今日から最低1ヶ月、毎日何かしら日記のようなものを書くことにした)

 

今日は「さるかに合戦」について考えた。

以下、さるかに合戦のさるの言い分を聞いてみたらどうなるだろうという妄想である。

 

ーー例の合戦当時、あなたを取り巻く環境はどのようなものだったのですか?

他の場所はどうかわかりませんが、私たちが住んでいた村には、我々の仲間が非常に少なくて。「さる」でしたっけ?あなたたちがそう呼ぶ種が少なかったということです。それで、いわゆる迫害を受けていました。食べ物が豊富な場所に立ち入ろうとすれば嫌がらせをされたし・・・あ、はい、他の生物たちからです。カニも、そうですね。村で繁栄していた種のひとつでしたから。彼らから受け入れられない私たちは村のはずれの荒廃した土地でひっそりと暮らすしかありませんでした。

 

ーーなぜそのような迫害を受けたと思いますか?

おそらく、ですけど。私たちはこの2本の前足を器用に使います。あなたたちが「手」と呼んでいるものとほとんど同じようにです。

私もカニとの一件で初めて気づいたのですが、どうやらこのような器用な足をもった生物は、あの村では私たちだけだったようです。土地の新参者である上に、特殊な身体能力を持っているということが、彼らにとっては脅威だったのだと思います。

 

ーーなるほど。では、そのような扱いを受けている復讐に、カニを騙しておにぎりを奪ったと?

違います!騙して奪うなんてそんな・・・そんな風に思われているのですね。

あの時は子供が体調を崩して・・・。

普段は荒廃した土地の中でも苦労と工夫を重ねて、木の実などわずかな食料をやりくりしながらなんとか暮らしていたのですが、そのときばかりは子供に栄養のあるものを食べさせてやりたかったんです。でも私の手元にあるのは柿のタネだけで・・・。柿のタネだって、私のとってはとても重要な食料源だったんです!上手く育てることができれば、長年、多くの実をつけますから。いつか良い土地を探して育てようと大切にしていたんです。でもその時は柿を育てている時間なんてなかった。すぐに食べられるものが必要だったんです。そんな状況で食料を探していた時に、偶然おにぎりを持ったカニに会ったんです。嫌われている私が何を言ってもダメだろうとは思ったけど、子供のためです。事情を説明して必死に懇願しました。柿のタネとおにぎりを交換して欲しい、と。そうしたらカニは渋々ながらOKしてくれて。心の底から感謝しました。おかげで子供も元気になりました。彼は恩人です。

 

ーーその恩人に向かって青い柿を投げつけた?

まさか!まさか!!そんなことするはずもありません。

数日後にカニが文句を言いに来たんです。柿のタネを植えたのに柿がならない、って。騙したな、って。

でも違うんです。私が小さい頃母から教わった言葉に「桃栗三年柿八年」っていうのがあって。え?あなたたちも知ってる?そんなに未来まで言い伝えられてるなんて、驚きです!母の言葉が!!・・・あ、すみません。話が逸れましたね。

つまり柿が実をつけるまでには時間がかかるってことを、カニに説明しました。それでも納得がいかないようだったので、カニが柿を植えたという場所まで同行しました。私は面食らいました。カニは、せっかく出た芽に向かって、ハサミでちょん切るぞ!って言うんです。なかなか成長しないから切ってしまうって。そんなもったいないことをするなんて信じられません!私は慌てて止めました。そして、植物を上手く育てるコツをいくつか教えたのです。雨以外にも定期的に水をやったほうがいいこと。それと、土には糞を混ぜるとよいということ。そして、花が咲いたら蜂に飛び回ってもらった方がいいということです。・・・全部母からの受け売りですけど。

最後に、「桃栗三年柿八年」という言葉を教えて、少し気長にかまえてみてほしいと伝えました。

それから何回季節が巡ったでしょうか。柿の木がきちんと育っているかは少し気になっていたけど、カニたちが住むエリアに私たちが勝手に立ち入ることは許されませんから。それまで通りひっそりと暮らしていました。

するとまたカニから連絡が来たのです。柿がなったが高くて取れないから、取ってほしいと。恩人の頼みです。私はすぐさま向かいました。

 

ーーでもカニは、あなたが投げた青い柿に当って亡くなりましたよね?

あれは・・・あれは・・・悔やんでも悔やみきれません。本当に、私が無知だったばかりに起こしてしまった事故だったんです・・・

私が柿の木に登ると、カニはまず青い柿を取ってくれと私に言いました。なんでも「柿渋」をつくるとかで。熟す前の柿から取る液体で、薬みたいに使えるんです。それも私が以前教えたことでした。カニは「柿渋」のために柿を砕く臼も用意したと嬉しそうでした。まずは「柿渋」のための青い柿を取ってほしいと説明されて、私はカニの言うとおり、青い柿をとってカニに渡そうとしました。

・・・でも私は大きな勘違いをしていたのです。カニも当然私たちのように、落とした柿を受け止めることができると。あの立派なハサミでキャッチできるものだと・・・でも・・・でも・・・間違っていました・・・本当に知らなかったんです。だってそれまで他の生物を関わることを許されていませんでしたから・・・すみません、言い訳にもならないですよね・・・

 

ーー不幸な事故だったということですね。では、カニ側の報復は誤りだったと?

いえ・・・私が彼に柿をぶつけてしまったのは事実ですから・・・罰を受けて当然だと思っています。カニの子供たちが私を恨むのは当然のことです。糞に蜂・栗に臼、報復に使われたのは、私が柿を育てるために教えたものばかりです。なんだか感服しました。私はそれだけのことをしてしまったのだな、と変に冷静な自分がいて(苦笑)

ただ、これをきっかけに私たちの仲間への迫害がさらに強くなってしまうことだけは懸念でした・・・でも私は絶命する前にそのことへの対策が何もできなかった。本当に後悔しています。悔やんでいます。私が命絶える直前に家族に言えたことと言えば、「桃だけは味方か」という一言だけで。意味がわからないですよね。生死の狭間に立ったらむしろ驚くほど思考がお気楽になって。そういえば「桃栗三年柿八年」の「桃」だけは報復に使われなかったな、なんてことが頭をよぎって、そんな言葉が出てしまったんです。

私たちの仲間・・・その、つまりその、「サル」は大丈夫だったのでしょうか。私の・・・私の息子は、幸せに暮らせたでしょうか・・・

 

え?息子が桃と?カニ退治に?

そんな・・・報復の応酬になってしまったのですね・・・そんなことは決して望んでいなかったのに・・・

え?カニじゃなくて、オニ?オニってなんでしょう・・・?